ゆとり社会人の読書ノート

法律を中心にいろいろな本を読みます

石川健治『自由と特権の距離(増補版)』(日本評論社、2007年)①

日本憲法学不朽の名著のご紹介です。

何回にわたるか渡るか分かりませんが、『自由と特権の距離』のレビューを始めたいと思います。

最初から本格的なレビューをすると挫折しかねないので、何回かに分けて書くという形をとりたいと思います。

本書の主題は、カール・シュミットが提唱したとされる「制度的保障」という概念についての、日独憲法学界の「誤解」を解くことです。

結論だけを抽出すれば、シュミットの名で語れている「制度的保障」には、公法上の「制度体保障」と、私法上の「法制度保障」が含まれており、政教分離の文脈で「シュミットの制度的保障」を語ってきた、最高裁を含む日本の公法界隈は大きな誤読をしている、というものです。

結論がセンセーショナルで隠れてしまいがちですが、本書は研究プロセスにおいても日本の公法学界に大きな影響を与えています。

まず、ドイツ公法学とフランス公法学の相互の影響を指摘している点です。日本の法律学者は、自らの準拠となる母国法を1つ定めて研究を進めていきますが、準拠先とされることが多いドイツ、フランスで、実は公法学の影響関係があったことを明らかにしています。ヨーロッパ公法学の広範な影響関係は、戦前においては「自明」なものだったのかもしれませんが、本書以後、より意識されるようになったのではないでしょうか。

この研究を機に、単独で研究されてきたオーリウや、イタリア公法学を代表するロマーノに新たな研究が進みました*1

次に、日本の初期公法学者の思考の前提を明らかにしたことです。すなわち、美濃部達吉のドイツ公法受容過程において、民法学が暗黙に前提としてる枠組みが大きな影響を与えていることを指摘し、それが日本の公法学者に失われたことが、シュミット誤読の一要因になっていることを指摘しています。

これは石川教授の現在の研究につながっています。清宮四郎をはじめとする日本公法学者の法制史的研究*2は、本書にその萌芽が見られます。

*1:本ブログで紹介している論考だと、ハンガリーのショムローを紹介した「窮極の旅」が該当します。 uyutomo.hatenablog.com

*2:本ブログで紹介しているものは、下記ご参照ください。 uyutomo.hatenablog.com uyutomo.hatenablog.com uyutomo.hatenablog.com uyutomo.hatenablog.com uyutomo.hatenablog.com uyutomo.hatenablog.com また、上記研究に触発された後世代の研究として、 uyutomo.hatenablog.com