ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

松井秀征『株主総会制度の基礎理論』(有斐閣、2010年)

通説に対する素朴な疑問から、既存の理解を覆す、助手論文のお手本のような1冊です。

本書は、現代ではシャンシャンで終わることが多く、その存在意義を感じることが少ない株主総会について、歴史的淵源から存在意義を解き明かす大著です。

通説(鈴木竹雄)は株主総会を次のように説明します。すなわち、「企業の所有者である株主からなる機関」であって、「株主の総意によって会社の意思を決定する必要的機関である」と。

この説明に含まれる、所有者、機関が果たして何を意味するのかを、オランダ・ドイツ・イギリス・アメリカの歴史的展開を見ていくことで解き明かしていきます。

上記の4ヶ国の分析を経て、筆者は株主総会を3つのモデルに分類します。

一つ目は、絶対主義モデルで、団体としての株式会社の存在そのものの基礎が主権者に依拠している場合です。このような政治的契機により成立している団体では、出資者の総会が意思決定のために設けられるか否かは政策的に必要かどうかで決まります。

二つ目は、自由主義モデルで、団体が純粋に出資者の営利目的に由来して構築される場合です。ここでは政治的契機が脱落しており、絶対的所有の下に置かれている資本を、契約を契機として株式会社に提供していることをもって、株主総会制度が基礎づけられます。出資者各自の絶対的所有権に基づく権利は緊張関係に陥ることが予想されるため、組織体としての株主総会が要請され、会議体としての株主総会における、現実の討論による「複雑性の縮減」が行われることになる。

三つ目は、多元主義モデルで、再び政治的契機(例えば労働者)が組み込まれる場合で、共同決定制度導入後のドイツにおける株式会社がこれに当たります。この場合、所有の契機は政治的契機によって制約を受けるため、組織体としての株主総会が持つ機能も希薄化する。

本書の副題には「なぜ株主総会は必要なのか」とありますが、その答えは差し当たり、所有の契機が観念される限りにおいて必要、ということになります。

株式会社の最高意思決定機関として、当然に語られてきた株主総会制度が、歴史的沿革を考察することによって動揺する様子は読んでいてとても興奮しました。