ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

森利博『アメリカ住宅金融の仕組みと証券化』(晃洋書房、2013年)

アメリカ住宅ローン市場とその背後にある巨大な証券化市場をまとめる良書です。

以前から漠然と証券化市場に興味があり、大垣尚司『ストラクチャード・ファイナンス入門』(日本経済新聞出版社、1997年)を読んでいました。

大垣『ストラクチャード・ファイナンス入門』は、今となっては内容は古くなっている部分もありますが、証券化勃興期の熱気とともに、主にアメリカでの証券化について概観できる良書です。

大垣教授の著作はどれも、高度な内容を読みやすい筆致で語るものが多く、私も何冊か持っています。ファイナンス実務と法との関連を、主にファイナンスの観点から説明できる、稀有な著者です。

そんな大垣『ストラクチャード・ファイナンス入門』で多く言及されていたのが、アメリカの住宅ローン証券化市場でした。

前置きが長くなってしまいましたが、本書はアメリカ住宅ローン市場とその証券化市場について概観できる1冊です。

学問的な考察よりは制度論やデータをまとめることに重きが置かれており、この分野について知識を得たい読者はまず読むべき1冊となっています。

本書が描き出すアメリカ住宅ローン市場は、①証券化できる債権であることが住宅ローンの条件決定に大きく影響していること(クレジットスコアが一定以上、固定金利等)、②住宅ローン制度の設計は社会福祉政策としての一面も持っていることから、①とは相反する低所得者の住宅取得も考慮しなければいけないこと、また、③住宅ローン制度設計は、金融(監督)政策の一環でもあり、金融機関に過大なリスクを取らせないよう証券化に制限を設ける必要があること、が特徴的でした。

類書は、雑誌論文として提供される数十ページ程度の論考、あるいは2002年発刊の井村進哉『現代アメリカの住宅金融システム』(東京大学出版会、2002年)まで遡らなければならず、本書の価値が窺えます。

私は、業務等で必要なわけではなく興味本位で読みましたが、とても読みやすく充実感がありました。少しでも興味があれば手に取ってみてはいかがでしょうか。