ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

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清宮四郎(樋口陽一編・解説)『憲法と国家の理論 』(講談社学術文庫、2021年)

講談社学術文庫の意気に感じました。

本書は、戦後憲法学を指導的立場で牽引した、清宮四郎博士の2冊の論文集から編まれた「アンソロジー」です。

編者を担当したのは、清宮門下生でもある樋口陽一教授です(豪華!)。

本書のもとになっている論文集は、清宮四郎『国家作用の理論』(有斐閣、1968年)と同『憲法の理論』(有斐閣、1969年)で、前者がより学術的な内容を多く含むのに対し、後者は一般向けの内容も含んでいます。

編者の樋口教授によって、本書にも両論文集の特色がバランスよく配置されています。主に『憲法の理論』からの論文を含む「Ⅰ 日本国憲法の思想と原理」は、一般の読者にも読みやすい内容であるのに対し、『国家作用の理論』からの論文を含む「Ⅱ 憲法理論の基礎」はかなり硬派な内容となっています。「違法の後法*1」や「法の定立、適用、執行」といった、どこかで引用されているのを見たことがある、レベルの傑作が揃っています。第一級の著者の論文集ながら読み手の間口を狭めない、編者の腕が光る構成になっています。

各論文は独立した論文として書かれているので、読者の興味関心によってつまみ読みしていくこともできます。

ただ、もし「Ⅱ 憲法理論の基礎」を読むのであれば、清宮の師であるケルゼンの法実証主義に関する知識は必須です*2

近年の講談社学術文庫では、本書以外にも憲法学関連の出版が目立っており、今後も良質な文庫本の提供を期待したいです。
(法学部出身の私からすると、清宮四郎の著作集が講談社学術文庫から出るというのは画期的な出来事という認識です。逆に、他の分野で講談社学術文庫から出ている本も同様にハイレベルなものが多いんだなと推測します。)

*1:石川健治「窮極の旅」同編『学問/政治/憲法』(岩波書店、2014年)の題材となっている論文です。 uyutomo.hatenablog.com

*2: