ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

石川健治「統治のヒストーリク」奥平康弘=樋口陽一編『危機の憲法学』(弘文堂、2013年)

石川健治教授による一連の憲法(学説)史研究のうちの1つです。
石川健治教授といえば、初期の研究では、財産権条項*1、制度的保障*2に関するものが有名ですが、最近では、清宮四郎を中心に憲法学説史について研究しているようです*3

本論文では、1935年の天皇機関説事件以降の抑圧されたムードの中発表された、「指導者国家と権力分立」という論文*4におけるRegierungとKontrolleという概念が主題となっています。

Regierungとは、いわゆる政府のことですが、狭義には「国家機構全体を大所高所から指導する作用」としての「執政」という意味も含んでいます。

他方、Kontrolleとは、「統制」のことで、「政府」を「統制」するには、対抗役割を与えられた組織単位の前提として、それ相応の自律性・独立性を承認された、同格の組織単位が存在することが要請されます。

清宮が「指導者国家と権力分立」で取り上げた「指導者国家」は、個人をまったく無視する全体主義を指向しているが、それは全体を無視する個人主義と同程度に極端なものである、として批判されています。ここに、団体主義と個人主義の調和を最善とする、清宮の「真の中庸」への確信が見て取れます。戦後、清宮が、9条についての意見表明をためらわなかったのも、議会が軍制の前に無力だったことに影響されたと推測されます。

感想

本論文は、京城学派公法学についての一連の論文の中でも、「指導者国家と権力分立」という論文にフォーカスした、各論的なものとなっています。本論文で予告されている「外地法」に関する論考は、石川健治「『京城』の清宮四郎―『外地法序説』への道」酒井哲哉=松田利彦編『帝国日本と植民地大学』(ゆまに書房、2014年)*5同「憲法のなかの『外国』」早稲田大学比較法研究所編『日本法の中の外国法―基本法の比較法的考察―』(早稲田大学比較法研究所叢書、2014年)*6、25-6頁の脚注30で言及されている、ショムロー・ボードグについての別稿は、同「窮極の旅」同編『学問/政治/憲法―連環と緊張』(岩波書店、2014年)*7だと思われます。

石川教授の京城学派公法学の論文を読んで思ったのは、京城公法学に限らず、学問の本流と離れたところに対称軸が形成されていることの面白さでした。ドイツに対するオーストリア(あるいはフランス)もそうですが、本流を冷ややかな目で見る対称軸、その目線を感じつつ流れに乗って邁進する本流、両者の緊張関係が学問の発展にとってかけがえのない触媒になるのだと感じました。その意味で、外国における日本法研究を促進する意義を理解できたような気がします。ドイツが留学生の受入れに熱心な理由も同じでしょうか。

*1:「財産権条項の射程拡大論とその位相(一・未完)―所有・自由・福祉の法ドグマーティク―」国家学会雑誌105巻3・4号1-64頁(1992)など。

*2:『自由と特権の距離―カール・シュミット「制度体保障」論・再考(増補版)』(日本評論社、2007年)

*3:本稿のほかに、「コスモス―京城学派公法学の光芒」酒井哲哉編『岩波講座 「帝国」日本の学知 第1巻 「帝国」編成の系譜』(岩波書店、2006年)

「「京城」の清宮四郎――『外地法序説』への道」酒井哲哉=松田利彦編『帝国日本と植民地大学』(ゆまに書房、2014年) など。

*4:清宮四郎「指導者国家と権力分立」同『憲法の理論』(有斐閣、1969年)221頁以下。

*5:*3参照

*6:

*7: