ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

坂井大輔「穂積八束の公法学(1)(2・完)」一橋法学12巻1号231-265頁、同12巻2号93-165頁

ネット上で面白い論文を見つけました。

HERMES-IR : Research & Education Resources
HERMES-IR : Research & Education Resources

本論文は、日本の憲法学最初期の重要人物でありながらその思想や法解釈が研究の対象となってこなかった、穂積八束の思想全体にスポットライトを当てる論文です。

これだけでも憲法学説史の論文として興味深いのですが、本稿の面白い点は、穂積の公法学を「天皇共産主義者」と捉えている点です。

穂積の憲法観と言えば、国家主義的・保守的といった印象が強く、実際、その「印象」だけで理解されている場合が少なくありませんでした。

しかし、穂積の思想を体系的に再構成しようとする著者によると、穂積の憲法観・公法学には次のような体系が見いだせるとのことです。

すなわち、資本主義の過度な発達は貧富の格差を拡大させるという大きな弊害を生じる。それを防ぐためには、個人主義を推進するのではなく、牧歌的な「家」制度を維持するべきであり、祖先への崇拝を拠り所にする「家-家族」の関係は、「(民族の始祖たる)天皇-家」の関係と相似であるという主張です。

上記の考えを前提にすると、親族法は「家」内での上下の関係を規律するものなので、公法として捉えられるべきであるし、穂積が傾注した道徳教育は、国家と個人の上下関係を国民に涵養する重要なツールということになります。

学説史が好きな私にとって、上記の穂積の憲法観や思想体系はかなり興味深かったです。著者の論文は継続的に追っていきたいと思います。

上記論文が面白いなと思った方は、私が一番好きな論文である「権力とグラフィクス」も是非ご参照ください。

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