オススメ度:★★★★★(星5つ)
内容 :★★★★★(星5つ)
読みやすさ:★★★★★(星5つ)
基本書と論文をつなぐちょうどいいレベルの参考書です。
大村教授の著作シリーズについて
本書は、大村教授の参考書シリーズである「広がる民法」の一冊です。大村教授は教科書だけでも多数のシリーズを刊行しており、現在は、「基本民法」シリーズが各200ページ前後の薄めの教科書として全7巻刊行されています。「広がる民法」シリーズはその参考書として位置づけられているシリーズです*1。
広がる民法シリーズは、1と5のみが既刊で、全体では下記のような内容で展開予定です。
本書の特徴
本書の焦点として、ⅱページにおいて「(公論の空間を形成する)学説を集合的にみるべきこと」が挙げられています。平たく言えば、初学者にもわかりやすい学説史入門といったところです。不動産賃借権や物権変動の法的構成等の具体的なテーマを挙げながら、学説がどのように公論を形成してきたのか(=どのような意識のもとに、どのような手法で民法学を解釈してきたのか)を、本当に分かりやすく説明しきっています。解釈手法論では、ボワソナード・梅・穂積陳重といった導入期、穂積重遠・末広の大正デモクラシー法学、鳩山のドイツ法学に準拠した概念法学、我妻・加藤・星野へと引き継がれていく利益衡量法学、川島による法社会学、平井による戦後民法学批判、奥田・北川から潮見・山本への引きづがれていった京大の債権法学、内田による関係的契約論理論と民法学の大きな潮流を網羅的に取り上げています。これらは、個別のテーマにおける学説史としてだけでなく、社会情勢との関わりも交えながら通史的にも触れられています。他の法律で類書を探すのは難しいタイプの本です。
個人的に参考になった箇所
民法のみならず法律学の基本書を読んでいて、「言っていることは分かるけど、なんでこんな議論をしているのか」と感じる部分は、多かれ少なかれ誰しもあると思います。基本書は「解釈論の到達点をわかりやすく提示する」ことが目的なので、限られた紙幅の中でどのような問題意識のもとに、どのような議論がなされて、どのような結論に至ったかを書ききることは不可能です。本書には、その行間を埋める記述が多く、大変参考になります。どの章も示唆に富んでいて選びきれないのですが、個人的に「なるほど」と頷くことが多かったのは、3法律行為と法秩序(鳩山によって導入された法律行為論が、平井によって批判され、体系性を失った形で基本書に残っていく。)、4時効制度の存在理由(川島による訴訟法的な立場からの批判によって動揺する時効論の体系的理解と、立法的対処。)、9物権変動の法的構成(二重譲渡をめぐる理論構成の中で、独仏民法の研究と社会情勢による要請が解釈論にどのような影響を与えたか。)、13瑕疵担保(特定物ドグマをめぐる法定責任説と契約責任説の攻防)、14不動産賃借権(関東大震災を背景とする生存権としての不動産賃借権、不動産利用権重視の風潮の台頭、農地改革による小作問題の解消、借地借家法・農業法から都市法への関心の移行。)、17抵当権と利用権(保全抵当から投資抵当を掲げる我妻シェーマ、鈴木禄弥による我妻シェーマの普遍性の否定、フランス抵当法による抵当法の再構成の萌芽)です。
最後に
民法自体の理解が覚束ない私にとって、本書は何回も読み返すべき1冊になりました。これから民法の学習が進めば、さらに吸収できる箇所も増えるはずです。本書のような本があることが学習の励みになります。いい本に出会えました。
以下は投げ銭用です。