ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

蟻川恒正「政府の言論の法理」駒村圭吾=鈴木秀美『表現の自由Ⅰ―状況へ』(尚学社、2011年)

蟻川教授の論文を読みました。

本論文は、教科書検定を題材にして、政府の言論を論じたものです。「教科書検定訴訟を支援する全国連絡会」という団体が出版している家永訴訟の記録(おそらく30冊以上に及ぶ)を下敷きに、原告・被告の主張を読み解いています。

蟻川教授は、教科書検定を、私人の表現活動に対する国家の統制ではなく、国家自らによる表現活動と位置づけ、「政府の言論」の法理を適用します。つまり、政府は、専門家の職責を妨げない範囲で協力を求めることができるにとどまるとします*1

教科書検定における専門職として注目すべきは、教科書調査官です。教科書調査官は、申請図書の実質的な調査を行っていますが、その実態は常勤の文部科学省職員であり、専門職としての独立性が疑問視されます。教科書調査官についての実態が明らかではないので、明言は避けていますが、上司の命令に従わざるを得ない立場である調査官に、専門職としての独立性があるというのは困難でしょう。よって、本論文の結論は、「教科書検定における政府は、表現内容中立性の要請を免除されえず、教科書執筆者に対して表現内容に着目したコントロールを及ぼすことは認められないといわなければならない」となります。

本論文でも、蟻川教授の鋭い「読み」は冴え渡っています。オススメです。

*1:政府の言論について詳しくは、蟻川恒正「政府と言論」ジュリスト1244号91-100頁(2003年)。教科書検定は、この「政府の言論」論文が提示するところの第2場面にあたります。