ゆとり社会人の読書ノート

法律を中心にいろいろな本を読みます

石川健治「憲法学の過去・現在・未来」横田耕一=高見勝利編『ブリッジブック憲法』(信山社、2002年)

憲法の入門書を読みました。

ブリッジブック憲法 (ブリッジブックシリーズ)

ブリッジブック憲法 (ブリッジブックシリーズ)

本書は、憲法の入門書というよりは、副読本ともいうべき本です。

憲法の初学者が、芦部憲法を読んだときに感じる「違和感」のようなものを解消するために役立ちます。憲法学の前提となる問題意識や、常識のようなものを補うことができます。現在でいうと、南野森編『憲法学の世界』(日本評論社、2013年)*1のような立ち位置の本でしょうか。

憲法学の世界』に比べると、各テーマの深みでは見劣りしてしまいますが、本書は、執筆者が豪華です(笑)

五十音順に列挙すると、

安念潤司石川健治、市川正人、井上典之、内野正幸、大石眞、大沢秀介、岡田信弘、笹田栄司、高見勝利、常本照樹、戸松秀典、長谷部恭男、棟居快行、横田耕一、渡辺康行(敬称略)

となっています。

大要

今日とりあげるのは、表題のように石川執筆部分です。

本論文では、憲法の法体系性がどのように変遷してきたのかについて論じられています。

周知のように、戦前の憲法は、ドイツを準拠国として法体系を作り上げていきました。その中でも、イェリネックの一般国家学が提示するモデルは圧倒的な影響力を持っていました。イェリネックは主観法と客観法という枠組を提示することで、憲法を(民法と同じような)法律学として論ずることができるようになりました。

しかし、憲法が手本とした民法において、民法典の存立の基礎を脅かすような議論が展開されるようになりました。それは「自由法運動」と呼ばれるもので、法律の規定がない箇所で紛争が起こった時に、裁判官が法の解釈によって自由に法創造を行う余地を確保することを主張しました。自由法運動を日本で最初に論じたのは、末弘厳太郎で、彼以降、判例法源性が重視されるようになりました。

第2次世界大戦直後には、客観法の再建が叫ばれるようになり、自然法の再生や人間の尊厳原理が援用されました。社会科学としての法学が成立するためには、やはり、自由法の恣意性を野放しにするよりは、客観法によって一定の合理性を担保すべきだと考えられるようになりました。

では、自由法運動を相対化した戦後の憲法解釈学は、どのように展開していったのでしょうか。

一番大きな流れは、芦部信喜によって推し進められた「憲法訴訟論」でした。その後も、フランス憲法学から「国民主権論」が積極的に導入されました。特に憲法訴訟論は、主観憲法に重点を置いているので、この傾向が行き過ぎると、再び合理性を疑われる事態になりかねません。

感想

内容自体は既に知っていることでしたが、憲法を学び始めたときにこの部分を読んでいれば、より効果的に学習できただろうなと若干後悔しました(笑)

特に、主観法・客観法の区別は、人権論の理解の基礎になる枠組なので、早めに習得しておきたいっ項目です*2。この点を分かりやすく提示している点で、本論文はオススメできます。

*1:

憲法学の世界

憲法学の世界

*2:主観法・客観法についての石川教授の論考として、石川健治「『基本的人権』の主観性と客観性」西原博史編『岩波講座憲法 第2巻 人権論の新展開』(岩波書店、2007年)参照。

岩波講座 憲法〈2〉人権論の新展開

岩波講座 憲法〈2〉人権論の新展開