ゆとり社会人の読書ノート&エクセルVBA

素人が公法を中心に幅広く読書をします&エクセルVBA奮闘記です。

大村敦志『典型契約と性質決定』(有斐閣、1997年)

大村教授の論文集を読みました。

最近すっかりご無沙汰でしたが、民法の論文集を読みました。

いわゆる典型契約について総論的に扱った論文集です。苦手なはずの民法ですが、とても分かりやすかったです。まあ、あんまり細かい話をしていないからだと思いますが。

個人的に面白いと思ったのは、典型契約論に、認知科学のカテゴリー論を導入しようという点です。認知科学のカテゴリー論とは、あるカテゴリーに該当するか否かを、カテゴリーが有する定義的特徴をどれだけ持っているかで判断しようという考え方です。あるカテゴリーの標準的な特徴を備えた例は、プロトタイプと呼ばれ、このプロトタイプと「距離」が重要な判断基準となります。カテゴリー論的に思考することによって、人間は有限な情報処理プロセスを有効に活用することができます。民法における典型契約は、まさに契約のプロトタイプであり、それをもとに思考・行動することで、人間は低コストで生活を送ることができるのです。

認知科学のカテゴリー論は、法律と親和的関係にあると2年くらい前から考えてきたので、それが、民法学の第一人者によって先取りされていて、とてもうれしく思いました。例えば、憲法では、規制目的二分論がプロトタイプで理解されるべき対象といえるでしょう。そもそも法律は、MECE*1に分けられる学問じゃないんです。立法目的だって、積極・消極のいずれかに振り分けるべきものじゃないはずです。積極性・消極性のプロトタイプを観念したうえで、それぞれのプロトタイプからの距離を論じるべきなんです。憲法学でプロトタイプ理論を用いて論じている人は知りませんが、どの法分野においても、もっと導入されるべき(あるいは意識されるべき)考え方だと思いました。

*1:もれなくだぶりなく。