ゆとり社会人の読書ノート

法律を中心にいろいろな本を読みます

櫻井敬子『財政の法学的研究』(有斐閣、2001年)

サクハシ行政法で有名な櫻井敬子教授の論文集です。博士論文を元に大幅に加筆されているようです。

財政の法学的研究

財政の法学的研究

本書は、2部構成となっていて、第1部では財政の法的理解というタイトルで、財政をどのように捉えるべきかを、明治憲法・ドイツまでさかのぼって論じています。第2部では、第1部の考察を前提として、予算循環や大蔵省改革、地方財政といった各論的テーマについて言及しています。以下、第1部を大雑把にまとめます。

大要

櫻井教授は、予算をめぐる従来の法的議論が、「(法的)性質」論に固執してしまった理由として、予算措置という国家作用が法的に見ていかなる特徴を有するもので、憲法上いかなる意義付けを与えられるべきか、という「予算観」の探究がなされてこなかったことにあるとします。そこで、予算措置の法的意義を検討し、現在の予算制度にいたるまでの予算制度の発展の歴史を制度的観点から整理します。

予算措置の法的意義

日本における予算の法的性質論*1は、19世紀後半のドイツの学説に強く影響されています。そのなかでも影響力を持ったのは、ラーバントによる「予算は形式的意味での法律であって、実質的には行政活動である」という定式です。この定式は、予算は法規でないという意味で行政である、という消極的予算観を提示した点で批判されることになりました。

ラーバントを批判する論者として、ヘッケルがいます。ヘッケルは、予算を「国家による先導」であるとし、政府が主導的な役割を果たすものの、議会との共同作用としてなされるべき行為であるとします(国家嚮導行為 Staatsleitung)。また、伝統的な「権力分立思想」に固執し、国家機能の「分配」という点を見落としている点も批判されています。

次に、予算の機能を積極的に認識するため、財政学や、それを取り込んだ法学における予算機能論を考察します。最初に言及されるのは、ドイツの財政学者マスグレイヴの定義です。彼によれば、財政には以下の3つの機能があるとされます。

  1. アダム・スミス以来の、資源の公・私両部門への効率的分配機能
  2. アドルフ・ワーグナー以来の、富と所得の分配調整機能
  3. ケインズ経済学以来重要となってきた、経済の安定的成長機能

現代においては、3の安定的成長機能が財政において重要な役割を果たすものの、日本国憲法はそれを予定していない古典的な予算制度を規定しています。

その後、マスグレイヴによる定義を下敷きに、①財政政策機能、②政治的機能、③統制機能、④経済政策的機能、という分類が法学でも受け入れられました。

他方、ホインは財政学への盲従を警告し、以下のように法学独自の定義づけを試みました。

  1. 調整機能
  2. 国家嚮導機能
  3. 外部統御機能
  4. 正当化機能
  5. 情報提供機能
  6. 統制機能
予算制度の発展過程

明治憲法下の予算制度は、プロイセン憲法に強く影響されましたが、それ以外にも多くのドイツ諸邦が参照されました。

まず、絶対主義時代における予算は、国家の財政状態を概観するための「行政技術」として発達します。続いて初期立憲主義時代になると、君主=政府の租税要求を根拠づけるため、議会による審査が行われるようになります(予算審査制)。議会勢力が拡大するにつれて、政府にたいする拘束は強まり、議会の承認を得なければ、政府は国家的需要をみたすために必要な収入を獲得できなくなりました。この段階になると、政府は議会を説得して折り合いをつけなければなりません(予算承認制)。予算審査制も予算承認制も、政府と議会の協調が必要だという意味で、「協調予算」と呼ぶことができます。しかし、政府と議会が速やかに協調しない場合、予算をめぐる争議は、政治闘争の場と化します。プロイセンでは、当時先端的とされたベルギー憲法を参照して、法律形式による予算の議決と、事後的な免責が定められました。法律形式による予算は、当時のドイツ諸邦に比べて新規性を有していましたが、結果として、協調予算から脱することはできませんでした。

明治憲法下の予算制度

明治憲法では、プロイセン憲法に強い影響を受けながらも、他の諸ラントの規定も参照されたことから、より完成度の高い予算制度が制定されました。まず、プロイセンとは異なり恒久税を前面に押し出したことで、国家収入と国家支出を分離することに成功します。次に、議会の関与については、法律形式による議決を避け、「予算協賛制」を採用します。軍事予算については、最初に限り議会は審議することができるが、以後は政府の同意を得なければ、一旦承認した支出を変更することはできないとしました。緊急財政権については、臨時会の招集が不可能なときに限定して財政上の緊急処分をなしうるが、事後的な議会の承認を必要とし、緊急勅令よりも要件を厳格にしました。最後に、予算の前年度執行についても規定されることとなりました。

以上の立法経緯を踏まえて、美濃部の予算理論をまとめると、以下のようになります。

  1. 予算措置は立法措置とは性質を異にし、予算は法律の下位に属する。
  2. 予算措置には政府および議会が関与する。
    • 予算を作成するのは政府である。
    • 議会による減額修正は政府の同意を要する。
    • 議会による増額修正はそもそも許されない。
  3. 予算は政府を拘束する。
    • 拘束力の根拠は議会の意思にある。
    • 拘束力は絶対的ではなく、予算外支出が認められる。

感想

第1部はとてもおもしろく読むことができました。予算を法的にどう捉えるかについて、かなり明確な道筋が見えてきました。個人的には、国家嚮導行為の側から財政について攻めてみたいと思っているので、本書よりは、高橋信行『統合と国家―国家嚮導行為の諸相』(有斐閣、2012年)*2の方が、刺激的ではありますが。『統合と国家』は、理解するまでに読まなければいけない本・論文が3つほどあるので、それを読み終えてからレビューできればと思います。

*1:日本では、承認説(美濃部達吉)、法規範説(清宮四郎)、法律説(小嶋和司)が知られています。

*2:

統合と国家 -- 国家嚮導行為の諸相

統合と国家 -- 国家嚮導行為の諸相